作人に与へても其生活は何等脅威されないが、私共が若し左様に土地を解放して与へたなら生活の根柢《こんてい》を全く破壊されて了ふのである。斯様な社会的に大影響を有する行動を如何に自分の所有物を処理する事が自由であるからとて無造作に為すとは余りに乱暴な遣口である』と云ふ意味や其他私の遣方を非難する書面が沢山来て居るさうです。
けれ共私は如何に考へても小作人と地主との経済的地位を調和し得ることは考へ得られない。夫れで私自身が何等労働するの結果でもなく小作人から労働の結果を搾取する事は私の良心をどうしても満足せしめる事が出来なかつた。で其の結果は私の文芸上の作品を大変に汚す事になり自己矛盾に陥つて苦んで来たのである。そこで私は私の土地を小作人達に与へたもので私としては、土地解放に依つて永らく悩まされて居た実際生活と思想との不調和より来る大煩悶から逃れたもので、晴々しい心地に今日なり得たのは全く土地解放の結果です。
夫故土地解放は私として洵《まこと》に已むを得ない結果行つたもので何と非難されても致し方ありませぬ。私が土地解放の社会的影響や私が既に充分に生活の安定を得て居り乍ら斯かる偽善的な行動
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