蒼《まっさお》で、手がぶるぶる震えて、八っちゃんの顔が真紅《まっか》で、ちっとも八っちゃんの顔みたいでないのを見たら、一人ぼっちになってしまったようで、我慢のしようもなく涙が出た。
お母さんは僕がべそをかき始めたのに気もつかないで、夢中になって八っちゃんの世話をしていなさった。婆やは膝《ひざ》をついたなりで覗《のぞ》きこむように、お母さんと八っちゃんの顔とのくっつき合っているのを見おろしていた。
その中《うち》に八っちゃんが胸にあてがっていた手を放して驚いたような顔をしたと思ったら、いきなりいつもの通りな大きな声を出してわーっと泣き出した。お母さんは夢中になって八っちゃんをだきすくめた。婆やはせきこんで、
「通りましたね、まあよかったこと」
といった。きっと碁石がお腹《なか》の中にはいってしまったのだろう。お母さんも少し安心なさったようだった。僕は泣きながらも、お母さんを見たら、その眼に涙が一杯たまっていた。
その時になってお母さんは急に思い出したように、婆やにお医者さんに駈けつけるようにと仰有った。婆やはぴょこぴょこと幾度《いくど》も頭を下《さげ》て、前垂《まえだれ》で、顔を
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