流に出遇つて彼れは自から川の本流に別れねばならなかつた。支流に沿うても、小さな土手が新らしく築かれてゐた。石垣の上の赤土はまだ風化せずに、どんより[#「どんより」に傍点]した空の下にあつても赤かつた。彼れはそのかん/\堅くなつた赤土の上を――彼れならぬ他人のした事業の上を踏みしめ/\歩いて行つた。
土手には一間ほどづつ隔てゝ落葉松が植ゑつけてあつた。而してその土手の上を通行すべからずと云ふ制札が立てゝあつた。行きつまる所には支流に小さな柴橋が渡してあつて、その側に小ざつぱりした百姓家が立つてゐた。彼れは垣根から中を覗き込んで見た。垣根に沿うて花豆の植ゑてあるのが見えた。
彼れも自分の庭の隅に花豆を植ゑて置いた。その自分の花豆は胚葉が出たばかりであるのに、此所の花豆はもう大きな暗緑の葉を三つづゝも擴げてゐた。
彼れは鋭く孤獨を感じながら歩いて行つた。彼れの歩き方は然し大跨でしつかりしてゐた。彼れは正しく彼れの大望に勵まされてゐるやうに見えた。
柴橋は渡られた。
眼の前の展望は段々狹まつて、行手の右側には街道と並行に山の裾が逼り出した。
彼れは其大望の成就の爲めには牢獄に投げ入
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