うと言いだすと、他のもそうだと言うのでそろそろ南に向かって旅立ちを始めました。
 ただやさしい形の葦となかのよくなった燕は帰ろうとはいたしません。朋輩《ほうばい》がさそってもいさめても、まだ帰らないのだとだだをこねてとうとうひとりぽっちになってしまいました。そうなるとたよりにするものは形のいい一本の葦ばかりであります。ある時その燕は二人《ふたり》っきりでお話をしようと葦の所に行って穂《ほ》の出た茎先にとまりますと、かわいそうに枯《か》れかけていた葦はぽっきり折れて穂先が垂《た》れてしまいました。燕はおどろいていたわりながら、
「葦さん、ぼくは大変な事をしたねえ、いたいだろう」
 と申しますと葦は悲しそうに、
「それはすこしはいたうございます」
 と答えます。燕は葦がかわいそうですからなぐさめて、
「だっていいや、ぼくは葦さんといっしょに冬までいるから」
 すると葦が風の助けで首をふりながら、
「それはいけません、あなたはまだ霜《しも》というやつを見ないんですか。それはおそろしいしらがの爺《じい》で、あなたのようなやさしいきれいな鳥は手もなく取って殺します。早く暖かい国に帰ってください、
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