ったりして、川ぞいにはおりしも夏ですから葦《あし》が青々とすずしくしげっていました。
燕はおもしろくってたまりません。まるでみなで鬼ごっこをするようにかけちがったりすりぬけたり葦の間を水に近く日がな三界遊びくらしましたが、その中一つの燕はおいしげった葦原の中の一本のやさしい形の葦とたいへんなかがよくって羽根がつかれると、そのなよなよとした茎先《くきさき》にとまってうれしそうにブランコをしたり、葦とお話をしたりして日を過ごしていました。
そのうちに長い夏もやがて末になって、葡萄の果《み》も紫水晶《むらさきすいしょう》のようになり、落ちて地にくさったのが、あまいかおりを風に送るようになりますと、村のむすめたちがたくさん出て来てかごにそれを摘《つ》み集めます。摘み集めながらうたう歌がおもしろいので、燕たちもうたいつれながら葡萄摘みの袖《そで》の下だの頭巾《ずきん》の上だのを飛びかけって遊びました。しかしやがて葡萄の収穫《とりいれ》も済みますと、もう冬ごもりのしたくです。朝ごとに河面は霧《きり》が濃《こ》くなってうす寒くさえ思われる時節となりましたので、気の早い一人《ひとり》の燕がもう帰ろ
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