金色に光った高い王子の立像の肩先《かたさき》に羽を休める事にしました。
王子の像は石だたみのしかれた往来の四つかどに立っています。さわやかにもたげた頭からは黄金の髪《かみ》が肩まで垂《た》れて左の手を帯刀《おはかせ》のつかに置いて屹《きっ》としたすがたで町を見下しています。たいへんやさしい王子であったのが、まだ年のわかいうちに病気でなくなられたので、王様と皇后がたいそう悲しまれて青銅《からかね》の上に金の延べ板をかぶせてその立像を造り記念のために町の目ぬきの所にそれをお立てになったのでした。
燕はこのわかいりりしい王子の肩《かた》に羽をすくめてうす寒い一夜を過ごし、翌日《あくるひ》町中をつつむ霧《きり》がやや晴れて朝日がうらうらと東に登ろうとするころ旅立ちの用意をしていますと、どこかで「燕、燕」と自分をよぶ声がします。はてなと思って見回しましたがだれも近くにいる様子はないから羽をのばそうとしますと、また同じように「燕、燕」とよぶものがあります。燕は不思議でたまりません。ふと王子のお顔をあおいで見ますと王子はやさしいにこやかな笑《え》みを浮《う》かべてオパールというとうとい石のひとみで燕をながめておいでになりました。燕はふと身をすりよせて、
「今私をおよびになったのはあなたでございますか」
と聞いてみますと王子はうなずかれて、
「いかにも私だ。実はおまえにすこしたのみたい事があるのでよんだのだが、それをかなえてくれるだろうか」
とおっしゃいます。燕はまだこんなりっぱなかたからまのあたりお声をかけられた事がないのでほくほく喜びながら、
「それはお安い御用です。なんでもいたしますからごえんりょなくおおせつけてくださいまし」と申し上げました。
王子はしばらく考えておられましたがやがて決心のおももちで、
「それではきのどくだが一つたのもう、あすこを見ろ」
と町の西の方をさしながら、
「あすこにきたない一軒立《いっけんだ》ちの家があって、たった一つの窓《まど》がこっちを向いて開いている。あの窓の中をよく見てごらん。一人の年|老《と》った寡婦《かふ》がせっせと針仕事《はりしごと》をしているだろう、あの人はたよりのない身で毎日ほねをおって賃仕事をしているのだがたのむ人が少いので時々は御飯も食べないでいるのがここから見える。私はそれがかわいそうでならないから何かやって助け
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