抜く外にはない。運命が親切なものなら運命と握手してその愛撫を受ける唯一つの道は、人がその本能の執着を育てゝ「大死」を早める事によつて、運命を狂喜させる外にはない。何れにしても道は一つだ。

     ○

 だからホイットマンは歌つて云つた。
「来い、可憐ななつかしい死よ、
 地上の限りを隅もなく、落付いた足どりで近付く、近付く、
 昼にも、夜にも、凡ての人に、各の人に、
 早かれ遅かれ、華車な姿の死よ。

 測り難い宇宙は讚むべきかな。
 その生、その喜び、珍らしい諸相と知識、
 又その愛、甘い愛──然しながら更らに更らに讚むべきかな、
 かの冷静に凡てを捲きこむ死の確実な抱擁の手は。

 静かな足どりで小息みなく近づいて来る暗らき母よ。
 心からあなたの為めに歓迎の歌を唄つた人はまだ一人もないと云ふのか。
 それなら私は唄はう──私は凡てに勝つてあなたを光栄としよう。
 あなたが必ず来るものなら、間違ひなく来て下さいと唄ひ出でよう。

 近づけ、力強い救助者!
 それが運命なら──あなたが人々をかき抱いたら。私は喜んでその死者を唄はう。
 あなたの愛に満ちて流れ漂ふ大海原に溶けこん
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