けれどもとうとう力まかせに引きずられて階子段《はしごだん》を登らせられてしまいました。そこに僕の好きな受持ちの先生の部屋《へや》があるのです。
やがてその部屋の戸をジムがノックしました。ノックするとは這入《はい》ってもいいかと戸をたたくことなのです。中からはやさしく「お這入《はい》り」という先生の声が聞こえました。僕はその部屋に這入る時ほどいやだと思ったことはまたとありません。
何か書きものをしていた先生はどやどやと這入って来た僕達を見ると、少し驚いたようでした。が、女の癖に男のように頸《くび》の所でぶつりと切った髪の毛を右の手で撫《な》であげながら、いつものとおりのやさしい顔をこちらに向けて、一寸《ちょっと》首をかしげただけで何の御用という風をしなさいました。そうするとよく出来る大きな子が前に出て、僕がジムの絵具を取ったことを委《くわ》しく先生に言いつけました。先生は少し曇った顔付きをして真面目《まじめ》にみんなの顔や、半分泣きかかっている僕の顔を見くらべていなさいましたが、僕に「それは本当ですか。」と聞かれました。本当なんだけれども、僕がそんないやな奴《やつ》だということをどう
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