のだった。葉子はまたきびしく倉地の胸を思った。それは寒さと愛着とから葉子を追い立てて二階に走らせようとするほどだった。しかし葉子はすでにそれをじっ[#「じっ」に傍点]とこらえるだけの冷静さを回復していた。倉地の妻に対する処置は昨夜のようであっては手ぎわよくは成し遂げられぬ。もっと冷たい知恵に力を借りなければならぬ――こう思い定めながら暁の白《しら》むのを知らずにまた眠りに誘われて行った。
翌日葉子はそれでも倉地より先に目をさまして手早く着がえをした。自分で板戸を繰りあけて見ると、縁先には、枯れた花壇の草や灌木《かんぼく》が風のために吹き乱された小庭があって、その先は、杉《すぎ》、松、その他の喬木《きょうぼく》の茂みを隔てて苔香園《たいこうえん》の手広い庭が見やられていた。きのうまでいた双鶴館《そうかくかん》の周囲とは全く違った、同じ東京の内とは思われないような静かな鄙《ひな》びた自然の姿が葉子の目の前には見渡された。まだ晴れきらない狭霧《さぎり》をこめた空気を通して、杉の葉越しにさしこむ朝の日の光が、雨にしっとり[#「しっとり」に傍点]と潤った庭の黒土の上に、まっすぐな杉の幹を棒縞《
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