子のする事は一つ一つ倉地の心がするように見えた。倉地のこうありたいと思う事は葉子があらかじめそうあらせていた。倉地のしたいと思う事は、葉子がちゃん[#「ちゃん」に傍点]とし遂げていた。茶わんの置き場所まで、着物のしまい所《どころ》まで、倉地は自分の手でしたとおりを葉子がしているのを見いだしているようだった。
 「しかし倉地は妻や娘たちをどうするのだろう」
 こんな事をそんな幸福の最中にも葉子は考えない事もなかった。しかし倉地の顔を見ると、そんな事は思うも恥ずかしいような些細《ささい》な事に思われた。葉子は倉地の中にすっかり[#「すっかり」に傍点]とけ込んだ自分を見いだすのみだった。定子までも犠牲にして倉地をその妻子から切り放そうなどいうたくらみはあまりにばからしい取り越し苦労であるのを思わせられた。
 「そうだ生まれてからこのかたわたしが求めていたものはとうとう来《こ》ようとしている。しかしこんな事がこう手近にあろうとはほんとうに思いもよらなかった。わたしみたいなばかはない。この幸福の頂上が今だとだれか教えてくれる人があったら、わたしはその瞬間に喜んで死ぬ。こんな幸福を見てから下り坂に
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