た。葉子は新聞記者の来襲を恐れて宿にとじこもったまま、火鉢《ひばち》の前にすわって、倉地の不在の時はこんな妄想《もうそう》に身も心もかきむしられていた。だんだん募って来るような腰の痛み、肩の凝り。そんなものさえ葉子の心をますますいらだたせた。
ことに倉地の帰りのおそい晩などは、葉子は座にも居《い》たたまれなかった。倉地の居間《いま》になっている十畳の間《ま》に行って、そこに倉地の面影《おもかげ》を少しでも忍ぼうとした。船の中での倉地との楽しい思い出は少しも浮かんで来ずに、どんな構えとも想像はできないが、とにかく倉地の住居《すまい》のある部屋《へや》に、三人の娘たちに取り巻かれて、美しい妻にかしずかれて杯を干している倉地ばかりが想像に浮かんだ。そこに脱ぎ捨ててある倉地のふだん着はますます葉子の想像をほしいままにさせた。いつでも葉子の情熱を引っつかんでゆすぶり立てるような倉地特有の膚の香《にお》い、芳醇《ほうじゅん》な酒や、煙草《たばこ》からにおい出るようなその香《にお》いを葉子は衣類をかき寄せて、それに顔を埋《うず》めながら、痲痺《まひ》して行くような気持ちでかぎにかいだ。その香《にお
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