電話がかかって来た。葉子は十時すぎにしてくれと返事をさせた。古藤に会うには倉地が横浜に行ったあとがいいと思ったからだ。
東京に帰ってから叔母《おば》と五十川《いそがわ》女史の所へは帰った事だけを知らせては置いたが、どっちからも訪問は元よりの事|一言半句《いちごんはんく》の挨拶《あいさつ》もなかった。責めて来るなり慰めて来るなり、なんとかしそうなものだ。あまりといえば人を踏みつけにしたしわざだとは思ったけれども、葉子としては結句それがめんどうがなくっていいとも思った。そんな人たちに会っていさくさ[#「いさくさ」に傍点]口をきくよりも、古藤と話しさえすればその口裏《くちうら》から東京の人たちの心持ちも大体はわかる。積極的な自分の態度はその上で決めてもおそくはないと思案した。
双鶴館《そうかくかん》の女将《おかみ》はほんとうに目から鼻に抜けるように落ち度なく、葉子の影身《かげみ》になって葉子のために尽くしてくれた。その後ろには倉地がいて、あのいかにも疎大らしく見えながら、人の気もつかないような綿密な所にまで気を配って、采配を振っているのはわかっていた。新聞記者などがどこをどうして探り出し
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