かかっていた、(葉子はそう思いながら自分の顔をなでたり、手の甲を調べて見たりした。そして確かに湯にはいった事を知った。)それならそれでいい。それから双鶴館の女将《おかみ》のあとをつけたのだったが、……あのへんから夢になったのかしらん。あすこにいる蛾《が》をもやもやした黒い影のように思ったりしていた事から考えてみると、いまいましさから自分は思わず背たけの低い女の幻影を見ていたのかもしれない。それにしてもいるはずの倉地がいないという法はないが……葉子はどうしても自分のして来た事にはっきり[#「はっきり」に傍点]連絡をつけて考える事ができなかった。
葉子は……自分の頭ではどう考えてみようもなくなって、ベルを押して番頭に来てもらった。
「あのう、あとでこの蛾《が》を追い出しておいてくださいな……それからね、さっき……といったところがどれほど前だかわたしにもはっきり[#「はっきり」に傍点]しませんがね、ここに三十格好の丸髷《まるまげ》を結った女の人が見えましたか」
「こちら様にはどなたもお見えにはなりませんが……」
番頭は怪訝《けげん》な顔をしてこう答えた。
「こちら様だろうがなんだろ
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