…しかし……一つなんとかならないもんでしょうか」
葉子の怒りに興奮した神経は正井のこの一言《ひとこと》にすぐおびえてしまった。何もかも倉地の裏面を知り抜いてるはずの正井が、捨てばちになったら倉地の身の上にどんな災難が降りかからぬとも限らぬ。そんな事をさせては飛んだ事になるだろう。そんな事をさせては飛んだ事になる。葉子はますます弱身《よわみ》になった自分を救い出す術《すべ》に困《こう》じ果てていた。
「それを御承知でわたしの所にいらしったって……たといわたしに都合がついたとしたところで、どうしようもありませんじゃないの。なんぼわたしだっても、倉地と仲たがえをなさったあなたに倉地の金を何する……」
「だから倉地さんのものをおねだりはしませんさ。木村さんからもたんまり[#「たんまり」に傍点]来ているはずじゃありませんか。その中から……たんとたあいいませんから、窮境を助けると思ってどうか」
正井は葉子を男たらしと見くびった態度で、情夫を持ってる妾《めかけ》にでも逼《せま》るようなずうずうしい顔色を見せた。こんな押し問答の結果葉子はとうとう正井に三百円ほどの金をむざ[#「むざ」に傍点]む
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