が潜んでいた。ほう、ほう……ほう、ほうほうと間遠《まどお》に単調に同じ木の枝と思わしい所から聞こえていた。人々が寝しずまってみると、憤怒《ふんぬ》の情はいつか消え果てて、いいようのない寂寞《せきばく》がそのあとに残った。
葉子のする事いう事は一つ一つ葉子を倉地から引き離そうとするばかりだった。今夜も倉地が葉子から待ち望んでいたものを葉子は明らかに知っていた。しかも葉子はわけのわからない怒りに任せて自分の思うままに振る舞った結果、倉地には不快きわまる失望を与えたに違いない。こうしたままで日がたつに従って、倉地は否応《いやおう》なしにさらに新しい性的興味の対象を求めるようになるのは目前の事だ。現に愛子はその候補者の一人として倉地の目には映り始めているのではないか。葉子は倉地との関係を始めから考えたどってみるにつれて、どうしても間違った方向に深入りしたのを悔いないではいられなかった。しかし倉地を手なずけるためにはあの道をえらぶよりしかたがなかったようにも思える。倉地の性格に欠点があるのだ。そうではない。倉地に愛を求めて行った自分の性格に欠点があるのだ。……そこまで理屈らしく理屈をたどって来
前へ
次へ
全465ページ中274ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング