ない恋人を持った事があるのよ」
 「さすがはお前だよ」
 「だから愛想《あいそ》が尽きたでしょう」
 突如としてまたいいようのないさびしさ、哀《かな》しさ、くやしさが暴風のように襲って来た。また来たと思ってもそれはもうおそかった。砂の上に突っ伏して、今にも絶え入りそうに身もだえする葉子を、倉地は聞こえぬ程度に舌打ちしながら介抱せねばならなかった。
 その夜旅館に帰ってからも葉子はいつまでも眠らなかった。そこに来て働く女中たちを一人《ひとり》一人|突慳貪《つっけんどん》にきびしくたしなめた。しまいには一人として寄りつくものがなくなってしまうくらい。倉地も始めのうちはしぶしぶつき合っていたが、ついには勝手にするがいいといわんばかりに座敷を代えてひとりで寝てしまった。
 春の夜はただ、事もなくしめやか[#「しめやか」に傍点]にふけて行った。遠くから聞こえて来る蛙《かわず》の鳴き声のほかには、日勝《にっしょう》様の森あたりでなくらしい梟《ふくろう》の声がするばかりだった。葉子とはなんの関係もない夜鳥でありながら、その声には人をばかにしきったような、それでいて聞くに堪《た》えないほどさびしい響き
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