、様子からも、落魄《らくはく》というような一種の気分が漂っていた。木部の顔は仮面のように冷然としていたが、釣《つ》り竿《ざお》の先は不注意にも水に浸って、釣り糸が女の髪の毛を流したように水に浮いて軽く震えていた。
 さすがの葉子も胸をどきん[#「どきん」に傍点]とさせて思わず身を退《しざ》らせた。「おーい、おい、おい、おい、おーい」……それがその瞬間に耳の底をすーっ[#「すーっ」に傍点]と通ってすーっ[#「すーっ」に傍点]と行くえも知らず過ぎ去った。怯《お》ず怯《お》ずと倉地をうかがうと、倉地は何事も知らぬげに、暖かに暮れて行く青空を振り仰いで目いっぱいにながめていた。
 「帰りましょう」
 葉子の声は震えていた。倉地はなんの気なしに葉子を顧みたが、
 「寒くでもなったか、口びるが白いぞ」
 といいながら欄干を離れた。二人《ふたり》がその男に後ろを見せて五六歩歩み出すと、
 「ちょっとお待ちください」
 という声が橋の下から聞こえた。倉地は始めてそこに人のいたのに気が付いて、眉《まゆ》をひそめながら振り返った。ざわざわと葦《あし》を分けながら小道を登って来る足音がして、ひょっこり[#「
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