かに薄かった。
 葉子は雷に撃たれたように突然泣きやんで頭をあげた。
 すぐ倉地が階子段《はしごだん》をのぼって来る音が聞こえた。
 「わたし台所に参りますからね」
 何も知らなかったらしい岡に、葉子はわずかにそれだけをいって、突然座を立って裏階子《うらばしご》に急いだ。と、かけ違いに倉地は座敷にはいって来た。強い酒の香がすぐ部屋《へや》の空気をよごした。
 「やあ春になりおった。桜が咲いたぜ。おい葉子」
 いかにも気さくらしく塩がれた声でこう叫んだ倉地に対して、葉子は返事もできないほど興奮していた。葉子は手に持ったハンケチを口に押し込むようにくわえて、震える手で壁を細かくたたくようにしながら階子段《はしごだん》を降りた。
 葉子は頭の中に天地の壊《くず》れ落ちるような音を聞きながら、そのまま縁に出て庭|下駄《げた》をはこうとあせったけれどもどうしてもはけないので、はだしのまま庭に出た。そして次の瞬間に自分を見いだした時にはいつ戸をあけたとも知らず物置き小屋の中にはいっていた。

    三六

 底のない悒鬱《ゆううつ》がともするとはげしく葉子を襲うようになった。いわれのない激怒がつ
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