免ください。船の中で始めてお目にかかってからわたし、ちっとも[#「ちっとも」に傍点]心持ちが変わってはいないんです。あなたがいらっしゃるんでわたし、ようやくさびしさからのがれます」
「うそ!……あなたはもうわたしに愛想《あいそ》をおつかしなのよ。わたしのように堕落したものは……」
葉子は岡の手を放して、とうとうハンケチを顔にあてた。
「そういう意味でいったわけじゃないんですけれども……」
ややしばらく沈黙した後に、当惑しきったようにさびしく岡は独語《ひとりご》ちてまた黙ってしまった。岡はどんなにさびしそうな時でもなかなか泣かなかった。それが彼をいっそうさびしく見せた。
三月末の夕方の空はなごやかだった。庭先の一重《ひとえ》桜のこずえには南に向いたほうに白い花《か》べんがどこからか飛んで来てくっついたようにちらほら[#「ちらほら」に傍点]見え出していた、その先には赤く霜枯れた杉森《すぎもり》がゆるやかに暮れ初《そ》めて、光を含んだ青空が静かに流れるように漂っていた。苔香園《たいこうえん》のほうから園丁が間遠《まどお》に鋏《はさみ》をならす音が聞こえるばかりだった。
若さから置
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