たかったのだ。彼女は不意に岡の前に現われようために裏階子《うらばしご》からそっ[#「そっ」に傍点]と登って行った。そして襖《ふすま》をあけるとそこに岡と愛子だけがいた。貞世は苔香園《たいこうえん》にでも行って遊んでいるのかそこには姿を見せなかった。
 岡は詩集らしいものを開いて見ていた。そこにはなお二三冊の書物が散らばっていた。愛子は縁側に出て手欄《てすり》から庭を見おろしていた。しかし葉子は不思議な本能から、階子段《はしごだん》に足をかけたころには、二人は決して今のような位置に、今のような態度でいたのではないという事を直覚していた。二人が一人《ひとり》は本を読み、一人が縁に出ているのは、いかにも自然でありながら非常に不自然だった。
 突然――それはほんとうに突然どこから飛び込んで来たのか知れない不快の念のために葉子の胸はかきむしられた。岡は葉子の姿を見ると、わざっと寛《くつろ》がせていたような姿勢を急に正して、読みふけっていたらしく見せた詩集をあまりに惜しげもなく閉じてしまった。そしていつもより少しなれなれしく挨拶《あいさつ》した。愛子は縁側から静かにこっちを振り向いて平生《ふだん》
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