て、葉子自身が結局自己を銷尽《しょうじん》して倉地の興味から離れつつある事には気づかなかったのだ。
 とにもかくにも二人の関係は竹柴館の一夜から面目を改めた。葉子は再び妻から情熱の若々しい情人になって見えた。そういう心の変化が葉子の肉体に及ぼす変化は驚くばかりだった。葉子は急に三つも四つも若やいだ。二十六の春を迎えた葉子はそのころの女としてはそろそろ老いの徴候をも見せるはずなのに、葉子は一つだけ年を若く取ったようだった。
 ある天気のいい午後――それは梅のつぼみがもう少しずつふくらみかかった午後の事だったが――葉子が縁側に倉地の肩に手をかけて立ち並びながら、うっとり[#「うっとり」に傍点]と上気して雀《すずめ》の交わるのを見ていた時、玄関に訪れた人の気配がした。
 「だれでしょう」
 倉地は物|惰《う》さそうに、
 「岡だろう」
 といった。
 「いゝえきっと正井さんよ」
 「なあに岡だ」
 「じゃ賭《か》けよ」
 葉子はまるで少女のように甘ったれた口調でいって玄関に出て見た。倉地がいったように岡だった。葉子は挨拶《あいさつ》もろくろくしないでいきなり[#「いきなり」に傍点]岡の手をし
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