「全くはおれが悪かったのかもしれない。一時は全く金には弱り込んだ。しかしおれは早や世の中の底潮《そこしお》にもぐり込んだ人間だと思うと度胸がすわってしまいおった。毒も皿《さら》も食ってくれよう、そう思って(倉地はあたりをはばかるようにさらに声を落とした)やり出した仕事があの組合の事よ。水先案内のやつらはくわしい海図を自分で作って持っとる。要塞地《ようさいち》の様子も玄人《くろうと》以上ださ。それを集めにかかってみた。思うようには行かんが、食うだけの金は余るほど出る」
 葉子は思わずぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]として息気《いき》がつまった。近ごろ怪しげな外国人が倉地の所に出入りするのも心当たりになった。倉地は葉子が倉地の言葉を理解して驚いた様子を見ると、ほとほと悪魔のような顔をしてにやり[#「にやり」に傍点]と笑った。捨てばちな不敵さと力とがみなぎって見えた。
 「愛想《あいそ》が尽きたか……」
 愛想が尽きた。葉子は自分自身に愛想が尽きようとしていた。葉子は自分の乗った船はいつでも相客《あいきゃく》もろともに転覆して沈んで底知れぬ泥土《でいど》の中に深々ともぐり込んで行く事を知った。売
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