の間こそ倉地に対してのようにはなつかなかった貞世もだんだんと岡と口をきくようになって、しまいには岡の穏やかな問いに対して思いのままをかわいらしく語って聞かせたり、話題に窮して岡が黙ってしまうと貞世のほうから無邪気な事を聞きただして、岡をほほえましたりした。なんといっても岡は美しい三人の姉妹が(そのうち愛子だけは他の二人《ふたり》とは全く違った態度で)心をこめて親しんで来るその好意には敵し兼ねて見えた。盛んに火を起こした暖かい部屋《へや》の中の空気にこもる若い女たちの髪からとも、ふところからとも、膚からとも知れぬ柔軟な香《かお》りだけでも去りがたい思いをさせたに違いなかった。いつのまにか岡はすっかり[#「すっかり」に傍点]腰を落ち着けて、いいようなく快く胸の中のわだかまり[#「わだかまり」に傍点]を一掃したように見えた。
 それからというもの、岡は美人屋敷とうわさされる葉子の隠れ家《が》におりおり出入りするようになった。倉地とも顔を合わせて、互いに快く船の中での思い出し話などをした。岡の目の上には葉子の目が義眼《いれめ》されていた。葉子のよしと見るものは岡もよしと見た。葉子の憎むものは岡
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