られるように思いなした。それがあたりまえの時ならば、どれほど多くの人にじろじろと見られようとも度を失うような葉子ではなかったけれども、たった今いまいましい新聞の記事を見た葉子ではあり、いかにも西洋じみた野暮《やぼ》くさい綿入《わたい》れを着ている葉子であった。服装に塵《ちり》ほどでも批点の打ちどころがあると気がひけてならない葉子としては、旅館を出て来たのが悲しいほど後悔された。
 葉子はとうとう税関|波止場《はとば》の入り口まで来てしまった。その入り口の小さな煉瓦《れんが》造りの事務所には、年の若い監視補たちが二重金ぼたんの背広に、海軍帽をかぶって事務を取っていたが、そこに近づく葉子の様子を見ると、きのう上陸した時から葉子を見知っているかのように、その飛び放れて華手《はで》造りな姿に目を定めるらしかった。物好きなその人たちは早くも新聞の記事を見て問題となっている女が自分に違いないと目星をつけているのではあるまいかと葉子は何事につけても愚痴っぽくひけ目になる自分を見いだした。葉子はしかしそうしたふうに見つめられながらもそこを立ち去る事ができなかった。もしや倉地が昼飯でも食べにあの大きな五
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