たちに貞世の昨夜の経過を誇りがに話して聞かせた。病室に帰って見ると、愛子がすでに目ざめた貞世に朝じまいをさせていた。熱が下がったのできげんのよかるべき貞世はいっそうふきげんになって見えた。愛子のする事一つ一つに故障をいい立てて、なかなかいう事を聞こうとはしなかった。熱の下がったのに連れて始めて貞世の意志が人間らしく働き出したのだと葉子は気がついて、それも許さなければならない事だと、自分の事のように心で弁疏《べんそ》した。ようやく洗面が済んで、それから寝台の周囲を整頓《せいとん》するともう全く朝になっていた。けさこそは貞世がきっと賞美しながら食事を取るだろうと葉子はいそいそとたけの高い食卓を寝台の所に持って行った。
 その時思いがけなくも朝がけに倉地が見舞いに来た。倉地も涼しげな単衣《ひとえ》に絽《ろ》の羽織《はおり》を羽織ったままだった。その強健な、物を物ともしない姿は夏の朝の気分としっくり[#「しっくり」に傍点]そぐって見えたばかりでなく、その日に限って葉子は絵島丸の中で語り合った倉地を見いだしたように思って、その寛濶《かんかつ》な様子がなつかしくのみながめられた。倉地もつとめて葉子の立ち直った気分に同《どう》じているらしかった。それが葉子をいっそう快活にした。葉子は久しぶりでその銀の鈴のような澄みとおった声で高調子に物をいいながら二言《ふたこと》目には涼しく笑った。
 「さ、貞《さあ》ちゃん、ねえさんが上手《じょうず》に味をつけて来て上げたからソップを召し上がれ。けさはきっとおいしく食べられますよ。今までは熱で味も何もなかったわね、かわいそうに」
 そういって貞世の身ぢかに椅子《いす》を占めながら、糊《のり》の強いナフキンを枕《まくら》から喉《のど》にかけてあてがってやると、貞世の顔は愛子のいうようにひどく青味がかって見えた。小さな不安が葉子の頭をつきぬけた。葉子は清潔な銀の匙《さじ》に少しばかりソップをしゃくい上げて貞世の口もとにあてがった。
 「まずい」
 貞世はちらっと[#「ちらっと」に傍点]姉をにらむように盗み見て、口にあるだけのソップをしいて飲みこんだ。
 「おやどうして」
 「甘ったらしくって」
 「そんなはずはないがねえ。どれそれじゃも少し塩を入れてあげますわ」
 葉子は塩をたしてみた。けれども貞世はうまいとはいわなかった。また一口飲み込むともうい
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