にしっかり[#「しっかり」に傍点]目を通しておいて、
 「わたしはこれから歩いて行くから、この手紙をここへ届けておくれ、返事はいらないのだから……お金ですよ、少しどっさり[#「どっさり」に傍点]あるから大事にしてね」
 と車夫にいいつけた。車夫はろくに見知りもないものに大金を渡して平気でいる女の顔を今さらのようにきょと[#「きょと」に傍点]きょとと見やりながら空俥《からぐるま》を引いて立ち去った。大八車《だいはちぐるま》が続けさまに田舎《いなか》に向いて帰って行く小石川の夕暮れの中を、葉子は傘《かさ》を杖《つえ》にしながら思いにふけって歩いて行った。
 こもった哀愁が、発しない酒のように、葉子のこめかみをちかちかと痛めた。葉子は人力車の行くえを見失っていた。そして自分ではまっすぐに釘店《くぎだな》のほうに急ぐつもりでいた。ところが実際は目に見えぬ力で人力車に結び付けられでもしたように、知らず知らず人力車の通ったとおりの道を歩いて、はっ[#「はっ」に傍点]と気がついた時にはいつのまにか、乳母が住む下谷《したや》池《いけ》の端《はた》の或《あ》る曲がり角《かど》に来て立っていた。
 そこで
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