立ったような感じを受けた。同時に鼻血がどくどく口から顎《あご》を伝って胸の合わせ目をよごした。驚いてハンケチを袂《たもと》から探り出そうとした時、
 「どうかなさいましたか」
 という声に驚かされて、葉子は始めて自分のあとに人力車がついて来ていたのに気が付いた。見ると捨て石のある所はもう八九町後ろになっていた。
 「鼻血なの」
 と応《こた》えながら葉子は初めてのようにあたりを見た。そこには紺暖簾《こんのれん》を所せまくかけ渡した紙屋の小店があった。葉子は取りあえずそこにはいって、人目を避けながら顔を洗わしてもらおうとした。
 四十格好の克明《こくめい》らしい内儀《かみ》さんがわが事のように金盥《かなだらい》に水を移して持って来てくれた。葉子はそれで白粉気《おしろいけ》のない顔を思う存分に冷やした。そして少し人心地《ひとごこち》がついたので、帯の間から懐中鏡を取り出して顔を直そうとすると、鏡がいつのまにかま二つに破《わ》れていた。先刻けつまずいた拍子に破れたのかしらんと思ってみたが、それくらいで破れるはずはない。怒りに任せて胸がかっ[#「かっ」に傍点]となった時、破れたのだろうか。なん
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