れでも男はようござんすのね、わがままが通るんですもの。女のわがままは通すよりしかたがないんですからほんとうに情けなくなりますのね。何も前世の約束なんでしょうよ……」
内田の細君は自分よりはるか年下の葉子の言葉をしみじみと聞いているらしかった。葉子は葉子でしみじみと細君の身なりを見ないではいられなかった。一昨日《おととい》あたり結ったままの束髪《そくはつ》だった。癖のない濃い髪には薪《たきぎ》の灰らしい灰がたかっていた。糊気《のりけ》のぬけきった単衣《ひとえ》も物さびしかった。その柄《がら》の細かい所には里の母の着古しというような香《にお》いがした。由緒《ゆいしょ》ある京都の士族に生まれたその人の皮膚は美しかった。それがなおさらその人をあわれにして見せた。
「他人《ひと》の事なぞ考えていられやしない」しばらくすると葉子は捨てばちにこんな事を思った。そして急にはずんだ調子になって、
「わたしあすアメリカに発《た》ちますの、ひとりで」
と突拍子《とっぴょうし》もなくいった。あまりの不意に細君は目を見張って顔をあげた。
「まあほんとうに」
「はあほんとうに……しかも木村の所に行くよ
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