き直ってしまった。古藤が縁側に出るとまた突然呼びとめた。障子《しょうじ》にはっきり[#「はっきり」に傍点]立ち姿をうつしたまま、
 「なんです」
 といって古藤は立ち戻《もど》る様子がなかった。葉子はいたずら者らしい笑いを口のあたりに浮かべていた。
 「あなたは木村と学校が同じでいらしったのね」
 「そうですよ、級は木村の……木村君のほうが二つも上でしたがね」
 「あなたはあの人をどうお思いになって」
 まるで少女のような無邪気な調子だった。古藤はほほえんだらしい語気で、
 「そんな事はもうあなたのほうがくわしいはずじゃありませんか……心《しん》のいい活動家ですよ」
 「あなたは?」
 葉子はぽん[#「ぽん」に傍点]と高飛車《たかびしゃ》に出た。そしてにやり[#「にやり」に傍点]としながらがっくり[#「がっくり」に傍点]と顔を上向きにはねて、床の間の一蝶《いっちょう》のひどい偽《まが》い物《もの》を見やっていた。古藤がとっさの返事に窮して、少しむっ[#「むっ」に傍点]とした様子で答え渋っているのを見て取ると、葉子は今度は声の調子を落として、いかにもたよりないというふうに、
 「日盛りは
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