うのを葉子は耳にも入れないふうで、
 「ほんとにばかねわたしは……思いやりもなんにもない事を申し上げてしまって、どうしましょうねえ。……もうわたしどんな事があってもそのお金だけはいただきません事よ。こういったらだれがなんといったってだめよ」
 ときっぱり[#「きっぱり」に傍点]いい切ってしまった。木村はもとより一度いい出したらあとへは引かない葉子の日ごろの性分を知り抜いていた。で、言わず語らずのうちに、その金は品物にして持って帰らすよりほかに道のない事を観念したらしかった。
    *    *    *
 その晩、事務長が仕事を終えてから葉子の部屋《へや》に来ると、葉子は何か気に障《さ》えたふうをしてろくろくもてなしもしなかった。
 「とうとう形《かた》がついた。十九日の朝の十時だよ出航は」
 という事務長の快活な言葉に返事もしなかった。男は怪訝《けげん》な顔つきで見やっている。
 「悪党」
 としばらくしてから、葉子は一言《ひとこと》これだけいって事務長をにらめた。
 「なんだ?」
 と尻上《しりあ》がりにいって事務長は笑っていた。
 「あなたみたいな残酷な人間はわたし始めて見た。
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