常だった。どんな時でも、強いものがその強味を振りかざして弱い者を圧迫するのを見ると、葉子はかっ[#「かっ」に傍点]となって、理が非でも弱いものを勝たしてやりたかった。今の場合木村は単に弱者であるばかりでなく、その境遇もみじめなほどたよりない苦しいものである事は存分に知り抜いていながら、木村に対しての同情は不思議にもわいて来なかった。齢《とし》の若さ、姿のしなやかさ、境遇のゆたかさ、才能のはなやかさというようなものをたよりにする男たちの蠱惑《こわく》の力は、事務長の前では吹けば飛ぶ塵《ちり》のごとく対照された。この男の前には、弱いものの哀れよりも醜さがさらけ出された。
なんという不幸な青年だろう。若い時に父親に死に別れてから、万事思いのままだった生活からいきなり[#「いきなり」に傍点]不自由な浮世のどん底にほうり出されながら、めげもせずにせっせ[#「せっせ」に傍点]と働いて、後ろ指をさされないだけの世渡りをして、だれからも働きのある行く末たのもしい人と思われながら、それでも心の中のさびしさを打ち消すために思い入った恋人は仇《あだ》し男にそむいてしまっている。それをまたそうとも知らずに、
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