、
「あなたはちっとも持っとらんのですか」
と聞いた。木村はわざと快活にしいて声高《こわだか》く笑いながら、
「きれいなもんです」
とまたチョッキをたたくと、
「そりゃいかん。何、船賃なんぞいりますものか。東京で本店にお払いになればいいんじゃし、横浜の支店長も万事心得とられるんだで、御心配いりませんわ。そりゃあなたお持ちになるがいい。外国にいて文《もん》なしでは心細いもんですよ」
と例の塩辛声《しおからごえ》でややふきげんらしくいった。その言葉には不思議に重々しい力がこもっていて、木村はしばらくかれこれと押し問答をしていたが、結局事務長の親切を無にする事の気の毒さに、直《すぐ》な心からなおいろいろと旅中の世話を頼みながら、また大きな紙入れを取り出して切手をたたみ込んでしまった。
「よしよしそれで何もいう事はなし。早月《さつき》さんはわしが引き受けた」
と不敵な微笑を浮かべながら、事務長は始めて葉子のほうを見返った。
葉子は二人《ふたり》を目の前に置いて、いつものように見比べながら二人の会話を聞いていた。あたりまえなら、葉子はたいていの場合、弱いものの味方をして見るのが
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