張してわき腹を左手で押えて、眉《まゆ》をひそめながら聞いていたが、もっともらしく幾度もうなずいて、
 「それはほんとうにおっしゃるとおりですから何も好んで近づきたいとは思わないんですけれども、これまでずいぶん世話になっていますしね、それにああ見えていて思いのほか親切気のある人ですから、ボーイでも水夫でもこわがりながらなついていますわ。おまけにわたしお金まで借りていますもの」
 とさも当惑したらしくいうと、
 「あなたお金は無しですか」
 木村は葉子の当惑さを自分の顔にも現わしていた。
 「それはお話ししたじゃありませんか」
 「困ったなあ」
 木村はよほど困りきったらしく握った手を鼻の下にあてがって、下を向いたまましばらく思案に暮れていたが、
 「いくらほど借りになっているんです」
 「さあ診察料や滋養品で百円近くにもなっていますかしらん」
 「あなたは金は全く無しですね」
 木村はさらに繰り返していってため息をついた。
 葉子は物慣れぬ弟を教えいたわるように、
 「それに万一わたしの病気がよくならないで、ひとまず日本へでも帰るようになれば、なおなお帰りの船の中では世話にならなければな
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