に傍点]もなく、
「事務長は、なんですか、夜になってまであなたの部屋《へや》に話しに来る事があるんですか」
とさりげなく尋ねようとするらしかったが、その語尾はわれにもなく震えていた。葉子は陥穽《わな》にかかった無知な獣《けもの》を憫《あわれ》み笑うような微笑を口びるに浮かべながら、
「そんな事がされますものかこの小さな船の中で。考えてもごらんなさいまし。さきほどわたしがいったのは、このごろは毎晩夜になると暇なので、あの人たちが食堂に集まって来て、酒を飲みながら大きな声でいろんなくだらない話をするんですの。それがよくここまで聞こえるんです。それにゆうべあの人が来なかったからからか[#「からか」に傍点]ってやっただけなんですのよ。このごろは質《たち》の悪い女までが隊を組むようにしてどっさり[#「どっさり」に傍点]船に来て、それは騒々しいんですの。……ほゝゝゝあなたの苦労性ったらない」
木村は取りつく島を見失って、二の句がつげないでいた。それを葉子はかわいい目を上げて、無邪気な顔をして見やりながら笑っていた。そして事務長がはいって来た時途切らした話の糸口をみごとに忘れずに拾い上げて、
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