いうと、事務長はからかい[#「からかい」に傍点]半分の冗談をきっかけ[#「きっかけ」に傍点]に、
 「木村さんの顔を見るとえらい事を忘れていたのに気がついたで。木村さんからあなたに電報が来とったのを、わたしゃビクトリヤのどさくさ[#「どさくさ」に傍点]でころり[#「ころり」に傍点]忘れとったんだ。すまん事でした。こんな皺《しわ》になりくさった」
 といいながら、左のポッケットから折り目に煙草《たばこ》の粉がはさまってもみくちゃ[#「くちゃ」に傍点]になった電報紙を取り出した。木村はさっき葉子がそれを見たと確かにいったその言葉に対して、怪訝《けげん》な顔つきをしながら葉子を見た。些細《ささい》な事ではあるが、それが事務長にも関係を持つ事だと思うと、葉子もちょっとどぎまぎ[#「どぎまぎ」に傍点]せずにはいられなかった。しかしそれはただ一瞬間だった。
 「倉地さん、あなたはきょう少しどうかなすっていらっしゃるわ。それはその時ちゃん[#「ちゃん」に傍点]と拝見したじゃありませんか」
 といいながらすばやく[#「すばやく」に傍点]目くばせすると、事務長はすぐ何かわけがあるのを気取《けど》ったらし
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