きていなかった。しかし考えてみると、木部|孤※[#「※」は「たけかんむりにエにふしづくり」、191−17]《こきょう》と別れた時でも、葉子には格別これという謀略があったわけではなく、ただその時々にわがままを振る舞ったに過ぎなかったのだけれども、その結果は葉子が何か恐ろしく深い企《たくら》みと手練《てくだ》を示したかのように人に取られていた事も思った。なんとかして漕《こ》ぎ抜けられない事はあるまい。そう思って、まず落ち付き払って木村に椅子《いす》をすすめた。木村が手近にある畳み椅子を取り上げて寝台のそばに来てすわると、葉子はまたしなやかな手を木村の膝《ひざ》の上において、男の顔をしげしげと見やりながら、
 「ほんとうにしばらくでしたわね。少しおやつれになったようですわ」
 といってみた。木村は自分の感情に打ち負かされて身を震わしていた。そしてわくわくと流れ出る涙が見る見る目からあふれて、顔を伝って幾筋となく流れ落ちた。葉子は、その涙の一しずくが気まぐれにも、うつむいた男の鼻の先に宿って、落ちそうで落ちないのを見やっていた。
 「ずいぶんいろいろと苦労なすったろうと思って、気が気ではなかっ
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