の顔も見えた。事務長は平気で葉子の肩に手をかけたままはいって行った。
 それは始終事務長や船医と一かたまりのグループを作って、サルンの小さなテーブルを囲んでウイスキーを傾けながら、時々他の船客の会話に無遠慮な皮肉や茶々を入れたりする連中だった。日本人が着るといかにもいや味に見えるアメリカ風の背広も、さして取ってつけたようには見えないほど、太平洋を幾度も往来したらしい人たちで、どんな職業に従事しているのか、そういう見分けには人一倍鋭敏な観察力を持っている葉子にすら見当がつかなかった。葉子がはいって行っても、彼らは格別自分たちの名前を名乗るでもなく、いちばん安楽な椅子《いす》に腰かけていた男が、それを葉子に譲って、自分は二つに折れるように小さくなって、すでに一人《ひとり》腰かけている寝台に曲がりこむと、一同はその様子に声を立てて笑ったが、すぐまた前どおり平気な顔をして勝手な口をきき始めた。それでも一座は事務長には一目《いちもく》置いているらしく、また事務長と葉子との関係も、事務長から残らず聞かされている様子だった。葉子はそういう人たちの間にあるのを結句気安く思った。彼らは葉子を下級船員のい
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