ほ》れていたんだ。それがわからないあなたじゃないでしょう。暴力? 暴力がなんだ。暴力は愚かなこった。殺したくなれば殺しても進んぜるよ」
葉子はその最後の言葉を聞くと瞑眩《めまい》を感ずるほど有頂天になった。
「あなたに木村さんというのが付いてるくらいは、横浜の支店長から聞かされとるんだが、どんな人だか僕はもちろん知りませんさ。知らんが僕のほうがあなたに深惚《ふかぼ》れしとる事だけは、この胸三寸でちゃん[#「ちゃん」に傍点]と知っとるんだ。それ、それがわからん? 僕は恥も何もさらけ出していっとるんですよ。これでもわからんですか」
葉子は目をかがやかしながら、その言葉をむさぼった。かみしめた。そしてのみ込んだ。
こうして葉子に取って運命的な一日は過ぎた。
一八
その夜船はビクトリヤに着いた。倉庫の立ちならんだ長い桟橋に"Car to the Town.Fare 15¢"と大きな白い看板に書いてあるのが夜目にもしるく葉子の眼窓《めまど》から見やられた。米国への上陸が禁ぜられているシナの苦力《クリー》がここから上陸するのと、相当の荷役とで、船の内外は急に騒々《そうぞう》しく
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