うにさし出した。葉子は黙って立ったまま手を延ばした。何をするにも心にもない作り事をしているようだった。この短い瞬間に、今までの出来事でいいかげん乱れていた心は、身の破滅がとうとう来てしまったのだというおそろしい予想に押しひしがれて、頭は氷で巻かれたように冷たく気《け》うとくなった。胸から喉《のど》もとにつきあげて来る冷たいそして熱い球《たま》のようなものを雄々《おお》しく飲み込んでも飲み込んでも涙がややともすると目がしらを熱くうるおして来た。薄手《うすで》のコップに泡《あわ》を立てて盛られた黄金色《こがねいろ》の酒は葉子の手の中で細かいさざ波を立てた。葉子はそれを気取《けど》られまいと、しいて左の手を軽くあげて鬢《びん》の毛をかき上げながら、コップを事務長のと打ち合わせたが、それをきっかけ[#「きっかけ」に傍点]に願《がん》でもほどけたように今までからく持ちこたえていた自制は根こそぎくずされてしまった。
 事務長がコップを器用に口びるにあてて、仰向きかげんに飲みほす間、葉子は杯を手にもったまま、ぐびりぐびりと動く男の喉《のど》を見つめていたが、いきなり自分の杯を飲まないまま盆の上にかえ
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