る叫喚が船を震わして響き渡っていた。葉子はこの瞬間の不思議に胸をどきつかせながら聞き耳を立てた。船のおののきとも自分のおののきとも知れぬ震動が葉子の五体を木の葉のようにもてあそんだ。しばらくしてその叫喚がややしずまったので、葉子はようやく、横浜を出て以来絶えて用いられなかった汽笛の声である事を悟った。検疫所が近づいたのだなと思って、襟《えり》もとをかき合わせながら、静かにソファの上に膝《ひざ》を立てて、眼窓《めまど》から外面《とのも》をのぞいて見た。けさまでは雨雲に閉じられていた空も見違えるようにからっ[#「からっ」に傍点]と晴れ渡って、紺青《こんじょう》の色の日の光のために奥深く輝いていた。松が自然に美しく配置されて生《は》え茂った岩がかった岸がすぐ目の先に見えて、海はいかにも入り江らしく可憐《かれん》なさざ波をつらね、その上を絵島丸は機関の動悸《どうき》を打ちながら徐《しず》かに走っていた。幾日の荒々しい海路からここに来て見ると、さすがにそこには人間の隠れ場らしい静かさがあった。
岸の奥まった所に白い壁の小さな家屋が見られた。そのかたわらには英国の国旗が微風にあおられて青空の中に
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