経をうずかして駆け通った。息気《いき》づまるようなけさの光景や、過去のあらゆる回想が、入り乱れて現われて来ても、葉子はそれに対して毛の末ほども心を動かされはしなかった。それは遠い遠い木魂《こだま》のようにうつろにかすかに響いては消えて行くばかりだった。過去の自分と今の自分とのこれほどな恐ろしい距《へだた》りを、葉子は恐れげもなく、成るがままに任せて置いて、重くよどんだ絶望的な悲哀にただわけもなくどこまでも引っぱられて行った。その先には暗い忘却が待ち設けていた。涙で重ったまぶたはだんだん打ち開いたままのひとみを蔽《おお》って行った。少し開いた口びるの間からは、うめくような軽い鼾《いびき》がもれ始めた。それを葉子はかすかに意識しながら、ソファの上にうつむきになったまま、いつとはなしに夢もない深い眠りに陥っていた。
 どのくらい眠っていたかわからない。突然葉子は心臓でも破裂しそうな驚きに打たれて、はっ[#「はっ」に傍点]と目を開いて頭をもたげた。ずき/\/\と頭の心《しん》が痛んで、部屋《へや》の中は火のように輝いて面《おもて》も向けられなかった。もう昼ごろだなと気が付く中にも、雷とも思われ
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