で二人《ふたり》ながら慇懃《いんぎん》に、
「お早うございます」
と挨拶《あいさつ》した。その様子がいかにも親しい目上に対するような態度で、ことに水夫長は、
「御退屈でございましたろう。それでもこれであと三日になりました。今度の航海にはしかしお陰様で大助かりをしまして、ゆうべからきわだってよくなりましてね」
と付け加えた。
葉子は一等船客の間の話題の的《まと》であったばかりでなく、上級船員の間のうわさの種《たね》であったばかりでなく、この長い航海中に、いつのまにか下級船員の間にも不思議な勢力になっていた。航海の八日目かに、ある老年の水夫がフォクスルで仕事をしていた時、錨《いかり》の鎖に足先をはさまれて骨をくじいた。プロメネード・デッキで偶然それを見つけた葉子は、船医より早くその場に駆けつけた。結びっこぶのように丸まって、痛みのためにもがき苦しむその老人のあとに引きそって、水夫|部屋《べや》の入り口まではたくさんの船員や船客が物珍しそうについて来たが、そこまで行くと船員ですらが中にはいるのを躊躇《ちゅうちょ》した。どんな秘密が潜んでいるかだれも知る人のないその内部は、船中では機
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