り》の女性を中心にして知らず知らず渦巻《うずま》きのようにめぐっていた。田川夫人と葉子との暗闘は表面には少しも目に立たないで戦われていたのだけれども、それが男たちに自然に刺激を与えないではおかなかった。平らな水に偶然落ちて来た微風のひき起こす小さな波紋ほどの変化でも、船の中では一《ひと》かどの事件だった。男たちはなぜともなく一種の緊張と興味とを感ずるように見えた。
 田川夫人は微妙な女の本能と直覚とで、じりじりと葉子の心のすみずみを探り回しているようだったが、ついにここぞという急所をつかんだらしく見えた。それまで事務長に対して見下したような丁寧さを見せていた夫人は、見る見る態度を変えて、食卓でも二人は、席が隣り合っているからという以上な親しげな会話を取りかわすようになった。田川博士までが夫人の意を迎えて、何かにつけて事務長の室《へや》に繁《しげ》く出入りするばかりか、事務長はたいていの夜は田川夫妻の部屋《へや》に呼び迎えられた。田川博士はもとより船の正客である。それをそらすような事務長ではない。倉地は船医の興録《こうろく》までを手伝わせて、田川夫妻の旅情を慰めるように振る舞った。田川博
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