あらわには知れないながら、何かさびしい過去を持つらしい、妖艶《ようえん》な、若い葉子の一挙一動を、絶えず興味深くじっ[#「じっ」に傍点]と見守るように見えた。
かの奇怪な心の動乱の一夜を過ごすと、その翌日から葉子はまたふだんのとおりに、いかにも足もとがあやうく見えながら少しも破綻《はたん》を示さず、ややもすれば他人の勝手になりそうでいて、よそからは決して動かされない女になっていた。始めて食堂に出た時のつつましやかさに引きかえて、時には快活な少女のように晴れやかな顔つきをして、船客らと言葉をかわしたりした。食堂に現われる時の葉子の服装だけでも、退屈に倦《うん》じ果てた人々には、物好きな期待を与えた。ある時は葉子は慎み深い深窓《しんそう》の婦人らしく上品に、ある時は素養の深い若いディレッタントのように高尚《こうしょう》に、またある時は習俗から解放された adventuress とも思われる放胆を示した。その極端な変化が一日の中に起こって来ても、人々はさして怪しく思わなかった。それほど葉子の性格には複雑なものが潜んでいるのを感じさせた。絵島丸が横浜の桟橋につながれている間から、人々の注意の
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