ゴの大学にでもいらっしゃいますの」
 岡は非常にあわてたようだった。なんと返事をしたものか恐ろしくためらうふうだったが、やがてあいまいに口の中で、
 「えゝ」
 とだけつぶやいて黙ってしまった。そのおぼこさ……葉子は闇《やみ》の中で目をかがやかしてほほえんだ。そして岡をあわれんだ。
 しかし青年をあわれむと同時に葉子の目は稲妻のように事務長の後ろ姿を斜めにかすめた。青年をあわれむ自分は事務長にあわれまれているのではないか。始終一歩ずつ上手《うわて》を行くような事務長が一種の憎しみをもってながめやられた。かつて味わった事のないこの憎しみの心を葉子はどうする事もできなかった。
 二人《ふたり》に別れて自分の船室に帰った葉子はほとんど delirium の状態にあった。眼睛《ひとみ》は大きく開いたままで、盲目《めくら》同様に部屋《へや》の中の物を見る事をしなかった。冷えきった手先はおどおどと両の袂《たもと》をつかんだり離したりしていた。葉子は夢中でショールとボアとをかなぐり捨て、もどかしげに帯だけほどくと、髪も解かずに寝台の上に倒れかかって、横になったまま羽根|枕《まくら》を両手でひし[#「
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