い一種の奇怪な響きが、舷《ふなべり》をめぐって叫ばれていた。葉子は前後左右に大きく傾く甲板の上を、傾くままに身を斜めにしてからく重心を取りながら、よろけよろけブリッジに近いハッチの物陰までたどりついて、ショールで深々と首から下を巻いて、白ペンキで塗った板囲いに身を寄せかけて立った、たたずんだ所は風下《かざしも》になっているが、頭の上では、檣《ほばしら》からたれ下がった索綱《さくこう》の類が風にしなってうなり[#「うなり」に傍点]を立て、アリュウシャン群島近い高緯度の空気は、九月の末とは思われぬほど寒く霜を含んでいた。気負いに気負った葉子の肉体はしかしさして寒いとは思わなかった。寒いとしてもむしろ快い寒さだった。もうどんどんと冷えて行く着物の裏に、心臓のはげしい鼓動につれて、乳房《ちぶさ》が冷たく触れたり離れたりするのが、なやましい気分を誘い出したりした。それにたたずんでいるのに足が爪先《つまさき》からだんだんに冷えて行って、やがて膝《ひざ》から下は知覚を失い始めたので、気分は妙に上《うわ》ずって来て、葉子の幼い時からの癖である夢ともうつつとも知れない音楽的な錯覚に陥って行った。五体も心
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