船のゆらぐごとに木と木とのすれあう不快な音は、おおかた船客の寝しずまった夜の寂寞《せきばく》の中にきわ立って響いた。自動平衡器の中にともされた蝋燭《ろうそく》は壁板に奇怪な角度を取って、ゆるぎもせずにぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]と光っていた。
戸をあけて甲板《かんばん》に出ると、甲板のあなたはさっきのままの波また波の堆積《たいせき》だった。大煙筒から吐き出される煤煙《ばいえん》はまっ黒い天の川のように無月《むげつ》の空を立ち割って水に近く斜めに流れていた。
一三
そこだけは星が光っていないので、雲のある所がようやく知れるぐらい思いきって暗い夜だった。おっかぶさって来るかと見上くれば、目のまわるほど遠のいて見え、遠いと思って見れば、今にも頭を包みそうに近く逼《せま》ってる鋼色《はがねいろ》の沈黙した大空が、際限もない羽をたれたように、同じ暗色の海原に続く所から波がわいて、闇《やみ》の中をのたうちまろびながら、見渡す限りわめき騒いでいる。耳を澄まして聞いていると、水と水とが激しくぶつかり合う底のほうに、
「おーい、おい、おい、おーい」
というかと思われる声ともつかな
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