びす》を返して自分の部屋《へや》に戻《もど》ろうとした。が、その時はもうおそかった。洋服姿の田川夫妻がはっきり[#「はっきり」に傍点]と見分けがつくほどの距離に進みよっていたので、さすがに葉子もそれを見て見ぬふりでやり過ごす事は得《え》しなかった。涙をぬぐいきると、左手をあげて髪のほつれ[#「ほつれ」に傍点]をしなをしながらかき上げた時、二人はもうすぐそばに近寄っていた。
 「あらあなたでしたの。わたしどもは少し用事ができておくれましたが、こんなにおそくまで室外《そと》にいらしってお寒くはありませんでしたか。気分はいかがです」
 田川夫人は例の目下《めした》の者にいい慣れた言葉を器用に使いながら、はっきり[#「はっきり」に傍点]とこういってのぞき込むようにした。夫妻はすぐ葉子が何をしていたかを感づいたらしい。葉子はそれをひどく不快に思った。
 「急に寒い所に出ましたせいですかしら、なんだか頭《つむり》がぐらぐらいたしまして」
 「お嘔《もど》しなさった……それはいけない」
 田川|博士《はかせ》は夫人の言葉を聞くともっともというふうに、二三度こっくり[#「こっくり」に傍点]とうなずいた
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