。雪をたっぷり含んだ空だけが、その間とわずかに争って、南方には見られぬ暗い、燐《りん》のような、さびしい光を残していた。一種のテンポを取って高くなり低くなりする黒い波濤《はとう》のかなたには、さらに黒ずんだ波の穂が果てしもなく連なっていた。船は思ったより激しく動揺していた。赤いガラスをはめた檣燈《しょうとう》が空高く、右から左、左から右へと広い角度を取ってひらめいた。ひらめくたびに船が横かしぎになって、重い水の抵抗を受けながら進んで行くのが、葉子の足からからだに伝わって感ぜられた。
葉子はふらふらと船にゆり上げゆり下げられながら、まんじりともせずに、黒い波の峰と波の谷とがかわるがわる目の前に現われるのを見つめていた。豊かな髪の毛をとおして寒さがしんしんと頭の中にしみこむのが、初めのうちは珍しくいい気持ちだったが、やがてしびれるような頭痛に変わって行った。……と急に、どこをどう潜んで来たとも知れない、いやなさびしさが盗風《とうふう》のように葉子を襲った。船に乗ってから春の草のように萌《も》え出した元気はぽっきり[#「ぽっきり」に傍点]と心《しん》を留められてしまった。こめかみがじんじん
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