博士《はかせ》はぬすむように夫人の顔をちょっとうかがっておいて、肥《ふと》ったからだをよけるようにして葉子を自分の隣にすわらせた。
すわりずまいをただしている間、たくさんの注視の中にも、葉子は田川夫人の冷たいひとみの光を浴びているのを心地《ここち》悪いほどに感じた。やがてきちん[#「きちん」に傍点]とつつましく正面を向いて腰かけて、ナプキンを取り上げながら、まず第一に田川夫人のほうに目をやってそっと挨拶《あいさつ》すると、今までの角々《かどかど》しい目にもさすがに申しわけほどの笑《え》みを見せて、夫人が何かいおうとした瞬間、その時までぎごちなく話を途切らしていた田川博士も事務長のほうを向いて何かいおうとしたところであったので、両方の言葉が気まずくぶつかりあって、夫婦は思わず同時に顔を見合わせた。一座の人々も、日本人といわず外国人といわず、葉子に集めていたひとみを田川夫妻のほうに向けた。「失礼」といってひかえた博士に夫人はちょっと頭を下げておいて、みんなに聞こえるほどはっきり澄んだ声で、
「とんと食堂においでがなかったので、お案じ申しましたの、船にはお困りですか」
といった。さすが
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